Once Upon a Time...

東大卒のパートタイムママです。海外の田舎(今はイギリス)で取り組むバイリンガル育児が中心のブログです。

ノーベル賞受賞と「内助の功」報道の気持ち悪さ

今年も日本人の研究者がノーベル賞を受賞したことで、それを支えた妻の「内助の功」を強調する報道が過熱しているようである。

以前こんな記事を書いていたのを某新聞社の記者さんに見つけていただき、私もコメント取材を受けた。

 

kamemari.hatenablog.com

 

 

私の夫も研究者であり、論文掲載のための長距離マラソン ("publication race") を激走中である。日々のプレッシャーは莫大なもので、その妻である私は「内助の功」を期待される立場なのかもしれない。

 

この「内助の功」報道について思うところを改めて書きたい。

 

今年のノーベル医学賞を受賞された本庶さんの会見が話題になっている。

冒頭、本庶さんは「落ち着いて考えてみますと、幸運な人生を歩んできたと言わざるを得ない。本当に幸せだった。多くの共同研究者、テクニカルスタッフ、秘書などにサポートしていただいた」と振り返った。

 その上で「家庭のことにはあまりタッチせず、研究にまい進した。こういう人生を2度、やりたいというほど、充実していた」と述べ、研究に没頭できる環境を作り出してくれた滋子さんを持ち上げた。

 その後の取材などでも「僕は家庭のことは何もしなくて、すべて妻に任せきり。(研究のため)十数回、引っ越ししていて陣頭指揮を全部とってくれた」「(滋子さんは)神様みたいな人」とたたえた。

研究で転居十数回、妻が陣頭指揮「神様みたい」(読売新聞) - Yahoo!ニュース

 

思わず後半部分を二度読みしてしまったのだが、正直なところ非常に違和感があった。

何か仕事で大きな業績をあげた男性が、「家庭のことは一切ノータッチで仕事ばかりしてました」と臆面もなくカメラの前で言える文化はそろそろ終わってもいいのではないだろうか。しかもそれが「美談」として扱われるのはどうかと思う。 

今ノーベル賞を受賞されたりその候補になるような研究者は70代かそれ以上の人が多い。そのことを考えると、価値観の変化はすでに始まっていて、今の30~40代ぐらいの研究者が将来ノーベル賞を受賞する際には上記のような発言はない時代になっているとも考えられる。というか、なっていて欲しい。

少なくとも、仮にそれ(家事育児は妻に任せっきりで仕事だけしていた)が事実でも、そんなこと恥ずかしくて言えない雰囲気にはなっていて欲しい。

 

とは言うものの、私は「内助の功」を全否定したいわけではない。相手が大変なときにお互いを支え合うのはむしろ夫婦の自然な形だと思う。

私は個人的には、この「支え合う」(=夫婦間のサポートが一方通行ではない)という部分がポイントだとは思うのだが、例えば仮に本庶さんご夫婦(特に奥様)がそれでハッピーであれば外野がとやかく言うことではないと思う。

でも、その「内助の功」をわざわざ強調する報道はかなり時代遅れだと言わざるを得ない。実際にSNSなどを見ていても、不快感をあらわにしている人は多い。

一方で、本庶さん夫婦のように妻に支えられている男性、プライドを持って夫のサポート役になっている女性からすると、こういった話は正しく「美談」であり、自分たちの生き方をも肯定してくれるストーリーなのだろう。人はみな自分と同じカテゴリーの人を応援したくなるからだ。しかし、現実的には今の日本はこのカテゴリーに入る夫婦はもはやマイノリティになりつつある。だから「内助の功」報道は共感されにくいのである。逆に、夫が激務のためワンオペで家事育児をせざるを得ない状況にある女性たちは、自分の意志でその立場になったわけではないため、不満がたまっている。そんな彼女たちからすると「内助の功」報道は献身的な妻像を押し付けられているようで不快に映る。

 

ちなみに、この話は日本に限った話ではない。一般的に研究者は引っ越しが多い。それについて行こうとすると、配偶者はキャリアをあきらめるか、すごく柔軟なキャリアパスを選ぶか、別居するしかない。(ごく一部のトップの研究者で新卒でいいポジションに決まってずっとそこにいるような人は別である。)

夫婦は対等なパートナーだという考え方の文化圏の国の人たちであれば、片方が相手のために我慢をし続けるなど夫婦間であまりに格差があると結婚生活を続けるのは難しいのかもしれない。実際アカデミアは離婚が多い。

 

本庶さんはきっと会見で純粋に奥様への感謝の気持ちを表したかったのだと思う。でも、 妻は願いをなんでも叶えてくれる神様ではない。生身の人間である。ツライ時期を耐えて支えた妻はえらい!みたいなスポ根ストーリーはもういいんじゃないでしょうか。