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フルタイムで働いていた母と専業主婦の娘

先週まで日本から母が遊びに来てくれていた。今年の年末は一時帰国を断念せざるを得なくなったため、代わりにというか、母がひとりで訪ねてきてくれた。母の滞在中は私がずっと風邪をひきっぱなしだったのであまり遠出はできなかったものの、そのおかげで(?)孫とおばあちゃんの時間が濃くなり、母も娘もいい時間が過ごせたようなのでそれはそれでよかった。

 

娘の昼寝中などに母とした会話の中で、まだたまに思い出すものがある。普段Skypeで対話はしているものの、母が娘に会うのは10カ月ぶりだった。娘の言語面や精神面の成長に驚いたわ、という話のながで、「あなたは〇〇ちゃんをよくここまでひとりで育てたわね」と母はぽつり言った。娘の成長は私の成果ではない、と私は思っているので、子供は親があれこれ心配しなくても勝手にいろいろできるようになっていくんだよね、というようなことを私は言った。しかし母が言いたいことはそういうことではなかった。

 

母は父と結婚する前からしていた仕事を出産後もずっと続けていた。私が大学を卒業する直前に定年を待たずに退職し、その後はNPOの運営に関わったりと何かと忙しくしている。つまり、一度も専業主婦(家事育児以外の責任が何もない状態という意味で)をしたことがない。そんな母から見ると、私が最初の就職先として金融業界を選び、いろんな刺激の中で仕事をしている姿をみるのは昔の自分を見るようだったのではと思う。

それが、私が結婚し夫の仕事の都合でアメリカに行ったところから状況が大きく変わった。最近まで楽しそうに仕事をしていた娘が結婚し仕事を辞め、主婦になり、母親になった。アメリカと日本という距離もあり、母と話す頻度はアメリカに行ってからは東京に住んでいた頃よりもぐっと減った。つまり、母は専業主婦としての私をほとんど知らない。

おそらく、母は今までがんばっていたのにどうした、と不思議に(そして少し残念に)思っていたのだと思う。アメリカにいるときに、電話でひと通り近況(主に娘のことと夫のこと)を話したあと「それで、あなたの活動は?」と聞かれることが何度かあった。どう答えたか今は思い出せないが、今は簡単に仕事に復帰できない理由を母にわかるように説明したのだと思う。母が「活動」という言葉を使ったのは、有給で働く仕事だけでなく、ボランティアや、学校に通うなど何か自分のためにすることはしていないの、という意味だったのだと思う。

ずっとフルタイムで働いてきた母にとって、自分の娘が病気でもないのに仕事をしないということはかなり大きなミステリーだったのだろうと思う。しかし、今回の訪問で娘と私の日常をじっくり見たことで、状況によっては育児を優先して仕事をしない選択をすることもあり得るということを知ったのではと思う。

母の言った「あなたは〇〇ちゃんをよくここまでひとりで育てたわね」という発言の裏には「私はひとりで子育てをしなかった」という思いがあるのだろう。私は子供のころ、母と、普通のサラリーマンよりは比較的時間に融通の利く仕事をしていた父と、保育園の保母さんたちと、祖母に囲まれて育った。祖母の家は電車で1時間半ぐらいのところにあり、困ったときのバックアップとして頼っていた。小学校に行くようになってからは、学童保育にお世話になり、いわゆるカギっ子だった。

特にさみしい思いをした覚えはないが、ひとつなぜかよく覚えているエピソードがある。お友達の家に遊びに行って、そのお家に手作りの造花がたくさん飾られていてとても素敵だったことを母に話したことがある。そのお友達のお母さんが趣味で作った作品だった。おそらく小学校低学年のころだったと思う。そのとき、母が少し寂しそうに「○○ちゃんのママはお仕事されてないからお家のこといろいろできていいわね」と言った。私が通っていた小学校は大半の家庭が専業主婦世帯で、共働き世帯はかなり少数だったと思うが、私が「そうか、みんなのママはおうちにいて、うちのママは外で働いてるんだな」と改めて考えたことは正直そのときの一度きりだったように思う。それくらい自分の母が働いていることは自然なことだった。今から思えばあの母のコメントからは母なりにいろんな葛藤をかかえていたことが思い知れ、そのときに私が何か気が利いたひとこと(「でも私はお仕事がんばっててすごいよ!」とか)を言ったのかどうか気になるところである。おそらく言ってないと思う。

 

少し話がそれたが、つまり、母は一対一で子供と向き合いべったり育児をすることがどういうことか知らなかったのだ。誰だって自分が経験したことをないことを想像するのは難しい。私も小さい子供をかかえてのワーキングマザーの日常は友人の話やメディアを通して知るものなので、大変そうだとは思うが深いレベルでは理解することはできない。でも、 今回の滞在で私の日々をみて母は子供が小さいうちは子育てに専念することはとても価値のあることだ、と思ったらしい。

誰かに認めてもらいたくて育児をしているわけではない。でもずっとフルタイムで働いてきて、おそらく私にもそれを望んでいた母に今の私の毎日を理解してもらえたことはとてもうれしい。

最後に、私と母のように世代間で結婚後の育児への関わり方が違う親子は多いのだと思う。このグラフによれば、(うちは逆だが)多くの場合、専業主婦世帯で育って、自分が結婚後は共働き世帯になる割合が高い。しかし、今のトレンドが続けば、すぐに共働き世帯で育って結婚後は自分も共働き世帯の一員になる人が大半な時代がくる。そうなるときっと世代間で育児に対する考え方のギャップも小さくなってくるのだろうなと思う。

 

f:id:kamemari:20161215002652p:plain資料出所厚生労働省「厚生労働白書」、内閣府「男女共同参画白書」(いずれも平成26年版)、総務省「労働力調査(詳細集計)」(2002年以降)

図12 専業主婦世帯と共働き世帯/早わかり グラフでみる長期労働統計|労働政策研究・研修機構(JILPT)

 

 

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