Unce Upon a Time...

イギリスの田舎暮らし、バイリンガル育児、イギリス英語についてお届けします

日本とイギリスの幼児クラフトの違いから思うこと

round purple, black, green, and white paper cuts

 

昨日は日本語補習校の関係者の方々が運営しているプレイグループに参加してきた。

私たちが住んでいる田舎町から、片道1時間半行くとちょっとした都会があり、そこには何社か日本の企業があるので小さいながらも駐在コミュニティがあるのだ。往復約3時間もかかってしまうため毎回は参加できないのだが、娘が日本語のシャワーをあびることのできる貴重な場であるためできる限り参加するようにしている。

 

さて、このプレイグループでは製作の時間がある。普段行っているローカルのプレイグループでも製作の時間があるので、今回は日本とイギリスの幼児クラフトの違いからいくつか思うことがあったので書いてみようと思う。

 

 

イギリスと日本の幼児クラフトの違い

当然ながらもうすぐ2歳になる娘はほとんどの作業は自分でできず、私がリードして作るかたちになる。作るもののレベルはイギリスでも日本でも同じなのでこれは変わらない。しかし、その作業プロセスには大きな違いがある。

  1. 日本の製作では事前にある程度の下準備がされている材料を使う。イギリスの製作ではほとんど全部自分で作る。
  2. 日本の製作は基本的に先生の指示に従って行う。イギリスの製作は最初にテーマが与えられたあとは個人個人が好きに作る。
  3. 日本の製作ではお片付けの指導をしてくれる。
 

段取り重視の日本と個性重視のイギリス?

日本の製作の時間は非常にうまくできている。

まず先生が作業の流れを説明し、次に材料が配られる。ここで配られる材料はある程度の下準備がされている。例えば紙は使う形に切ってあって、あとは張るだけの状態になっていたり、一部の部品は先生がすでに作ってくれていている。

さらに、作業の工程はしっかりガイドラインが与えられているので、それに従って作ればそれなりものができあがる。使う紙の色などの違いはあるものの、どの子の作品も見た目はそんなに変わらないものとなる。

 

一方イギリスの製作では、最初に先生がざっくりとしたテーマを説明したあと、さまざまな材料が入った大きな箱と、文房具等が入った箱をいくつか部屋の真ん中におく。その後は、それぞれが必要なものを取りに行って好きなように製作にとりかかる。

子供のクラフトとはいえ、空き箱などから動物のかたちを作りだすのはけっこう難しくてサポートする親は必死だ。

先生は材料を提供するところまでやったあとは、部屋を歩き回って「あら素敵な色の組み合わせだね」とか「かっこいいのができたね」などコメントをするだけ。製作に使う材料も統一されてなくて、箱や棒などが適当に投げ入れられている箱から子供たちが好きなものを選んで使うスタイルだ。テーマによっては最低限必要なものは各自に配られることもあるが、できあがり品はバラバラだ。

 

 終わったあとにも違いがでる。日本の製作では全員が作り終わると、「さぁみんなでお片付けしよう!」となり、使ったものはもとにあったところに戻す、ゴミはゴミ箱へ、などとしっかり指導してくれる。

一方でイギリスの製作時間は、終わったあとは気持ち程度のお片付けをするだけだ。ハサミなど危ないものはちゃんと回収するが、お片付けをするというより次のアクティビティをするためのスペースを作るイメージだ。ただこれはプレイグループによって差があり、普段私たちが行ってる地元のプレイグループでもしっかりとお片付けをさせるところもひとつある。

 

日本式とイギリス式の長所と短所

日本の製作とイギリスの製作と両方を体験して、そのスタイルの違いはそれぞれの文化の違いをよく反映していると思った。

 

おそらく日本式の製作に慣れ親しんだ子供たちは、仕事を指示通りにこなすことができる大人へと成長するのであろう。

日本が経験した急速な経済成長の背景にはこのような幼児教育に始まる日本の教育スタイルがあったと考えても大げさではないはずだ。そして今日の日本社会が全体として秩序を保ちうまく機能しているのもきっと小さなころからルール(ガイドライン)に従って何かをする、ということを経験しているからだとも考えられる。

 

一方でイギリス式では、基本的になんでもありなので、間違いなく個性は伸ばされる。こんな風に創造力や表現力を存分に刺激されて育つ子供たちは大人になったときには非常にクリエイティブな発想の持ち主となるのだろう。

しかし、そのような独創的な人間の集団というものは収集がつきにくい。イギリス社会がかかえる問題の一部ともつながりがあるように思える。片付けをちゃんと指導しないことも、せっかくの美しい街並みなのにゴミのポイ捨て問題が一向に解決しないことともつながるはずだ。

 

もちろん日本式の方に問題がないかと言えばそうではない。これからの経済成長を支えるのはクリエイティブ産業だといわれている。ガイドラインなしに自分で考えて何かをつくり出すことのできる人の市場価値はどんどん上がっている。指示通りに完璧に仕事がこなせるだけではこれからは生き残れない時代だ。

従来の伝統的な産業で働く人も、部下として上司について働くうちは評価が高いが、昇進して自らプロジェクトをリードしなくてけなくなったときに突然どう動いていいかわからなくなる、ということがありえる。

 

よく日本人はクリエイティブじゃないと言われるが、実際のところは単にクリエイティブになるトレーニングを受けていないからではないかと思う。誰だってやったことがないことは難しい。プレゼンと同じだ。日本の教育では(今は)あまりプレゼンテーションをする機会が少ないので、例えば小学生からプレゼンのトレーニングを受けているアメリカ人と張り合おうとすると当然きびしい。

 

イギリスでは2008年の金融危機以降、音楽やアートを中心とするクリエイティブ産業の発展がめざましい。イギリス人のクリエイティビティは幼児の製作の時間から始まっている。日本も今クリエイティブ産業に力を入れようとしているが、保育園や幼稚園で行う製作にもう少しそれぞれの自主性が関与できるようにシフトすると長い目で見るといい影響が出るはずだと思う。

 

 娘は日英の両方の製作を経験できるという非常にラッキーな場にいるので、ぜひ両方のいいとこどりをしてもらいたいところだが果たしてどうでるか。。。